処方箋薬すべてが悪いわけではありません。
本人に合った薬で適切な飲み方をすれば、うつ病など比較的早く治る場合もあるようです。
医師の指示通りの服用を守ることや時間をかけて診療してくれる
医師との信頼関係も必要です。
大量に処方されている場合は、なるべく薬を減らして欲しいと
医師に伝えたり話し合ったり、依存症関係に詳しい病院へ転院することも
よいかも知れません。
・処方箋薬の在庫が少なくなると不安。
・処方箋薬を外出先で忘れるとパニックになる。
・処方箋薬を医師の指示通りより多く服用している。
・処方箋薬に加え、市販薬の風邪薬や鎮痛薬も
風邪や痛みはなく必要ないのに服用している。
・ 病院やクリニックをはしごして、処方箋薬を重複してもらっている。
・眠剤がないと眠れなく手放せなくなっている。
・眠剤を飲んで眠っている間、大量の発汗がある。
・処方箋薬を飲み忘れると焦りや不安が出てパニックになる。
・処方箋薬を飲み忘れると、体が震える。
・何のために薬を飲んでいるのか分からないが
飲まないと不安で飲んでいる。
・薬を必要以上に溜め込んでいる。
・脱法薬物やハーブなどを常用している。
・違法薬物を常用している。
など。
薬物依存症の概念を理解するためには、薬物乱用、薬物依存、薬物中毒という3つの鍵概念とその関係を理解することが大切です(図1、図2)。
薬物乱用とは、ルールに反した「行い」に対する言葉で、社会規範から逸脱した目的や方法で、薬物を自ら使用することをいいます。
覚せい剤、麻薬(コカイン、あへん・ヘロイン、LSD、MDMAなど)は、製造、所持、売買のみならず、自己使用そのものが法律によって禁止されています。
したがって、それらを1回使っただけでも乱用です。
未成年者の飲酒・喫煙も法により禁じられているため、1回の飲酒・喫煙でも乱用です。
有機溶剤(シンナー、接着剤など)は、それぞれの用途のために販売されているのであり、吸引は目的の逸脱で、1回の吸引でも乱用です。
また、1回に1錠飲むように指示された睡眠薬、鎮痛薬などの医薬品を、「早く治りたい」と考え、一度に複数錠飲む行為は、治療の為という目的は妥当ですが、方法的には指示に対する違反であり、乱用です。
もちろん、医薬品を「遊び」目的で使うことは、目的の逸脱であり、乱用です。
ところで、わが国には成人の飲酒に対する規制はありません。しかし、朝から飲酒して社会生活に影響するようでは妥当な飲み方とはいえず、やはり乱用です。
飲酒については、イスラム文化圏では、成人といえどもそれ自体を禁じている国が少なくありません。
この事実は、薬物乱用という概念が、社会規範からの逸脱という尺度で評価した用語であり、逆に医学用語としての使用には難があることを意味しています。
そのため世界保健機関(World Health Organization:WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)では、文化的・社会的価値基準を含んだ薬物乱用という用語を廃止し、精神的・身体的意味での有害な使用パターンに対しては「有害な使用」という用語を使うことにしました。
つまり、乱用という概念は、社会生活上のルール違反という尺度で評価した用語であり、あくまでも「行い」に対する用語であると考えるべきでしょう。
薬物の乱用をくりかえすと、薬物依存という「状態」におちいります。
薬物依存という状態は、WHOにより世界共通概念として定義づけられています。簡単にいえば、薬物の乱用の繰り返しの結果として生じた脳の慢性的な異常状態であり、その薬物の使用をやめようと思っても、渇望を自己コントロールできずに薬物を乱用してしまう状態のことです。
この薬物依存は、便宜上、身体依存と精神依存の二つに分けて考えると理解しやすくなります。
身体依存は、アルコールを例にとると理解しやすいでしょう。長年大量のアルコールを飲み続けた人は、いつの間にか、体の中にはアルコールがいつもあるものだという体に変化します。そのような人が飲酒のできない状況下に置かれた場合、体は異変を起こします。手の震えや幻覚・意識障害などの「振戦せん妄」と呼ばれる離脱症状(従来は禁断症状といいました)を呈することがあります。このような状態になる場合、その人は身体依存になっているのです。
身体依存になってしまうと、離脱症状の苦痛を避けるために、何としてでもアルコールを入手しようとして、家族の目を盗んで自動販売機に向かったりといった、アルコールを手に入れるための行動を起こします。このような行動を薬物探索行動といいます。そしてアルコールを入手し、飲酒が繰り返されることになります。
精神依存とは、渇望に抗しきれず、自制が働かなくなった脳の障害(状態)です。精神依存だけでは、その薬物が切れても、身体的な不調は原則的には出ません。
ニコチンには精神依存を引き起こす強い作用がありますが、身体依存を引き起こす作用は実際上はないと考えられています。喫煙者はタバコが切れると、時刻、天候にかかわらず、労をいとわず買いに行きます(薬物探索行動)。職場では、喫煙者同士で「1本もらえる?」と供給し合います。この「1本もらえる?」という言葉は、紛れもない薬物探索行動です。
薬物探索行動は、ニコチンの場合には「1本もらえる?」で済みますが、覚せい剤の場合には、入手するためには「まずはお金だ!」ということになります。結局、あり金を使い果たし、その後は家族、友人に無心し、時にはお金欲しさの犯罪にまで及ぶことまであるわけです。
薬物には、精神依存だけを引き起こす薬物と、精神依存と身体依存の両方を引き起こす薬物の2種類があります。アルコール、モルヒネ、ヘロインは、精神依存のみならず身体依存も引き起こします。ところが、ニコチン、覚せい剤、コカインは強い精神依存を引き起こしますが、身体依存は引き起こしません。したがって、薬物依存の中心は精神依存であるということになります。
薬物中毒は、急性中毒と慢性中毒の2種類に分けられます(図1)。
アルコールの「一気飲み」は薬物乱用です。そのような飲み方は、酔いを一気に通り越して意識不明の状態を生み出しやすく、生命的な危機を招きます。このような状態が急性中毒で、乱用による薬物の直接的薬理作用の結果です。
依存状態の有無にかかわらず、薬物を乱用すれば、誰でもいつでも急性中毒におちいる危険性があります。急性中毒は迅速かつ適切な処置により回復することが多いわけですが、時には亡くなってしまうこともあります。
慢性中毒とは、薬物依存におちいっている人がさらに乱用を繰り返した結果として発生する慢性的状態です。こうなると、原因薬物の使用を中止しても、出現していた症状は自然には消えず、時には進行性に悪化していきます。幻覚や妄想を主症状とする覚せい剤精神病、「無動機症候群」を特徴とする有機溶剤精神病などがその代表です。 幸い、覚せい剤精神病の幻覚や妄想は3カ月以内の治療で約80%は消し去ることができます。しかし、幻覚や妄想が治ったからといって、薬物依存までもが「治った」わけではないのです(図2)。苦労して何とか本人を入院させたにもかかわらず、幻覚・妄想の消えた本人に懇願されて退院させたところ、ほどなく覚せい剤を再乱用され、再び本人を病院に連れて行かざるを得なくなったという体験をもつ家族は少なくありません。 薬物依存と薬物(慢性)中毒の違いを理解することがきわめて重要です。重要なのは、薬物乱用、薬物依存、薬物中毒の関係が、同一平面上の概念ではないということです。薬物依存と薬物乱用との関係はモグラ叩きの機械とモグラの関係に例えられます。薬物依存が存在する限り、いつでも薬物乱用が起きうる(あるいは頻発する)のです。 各薬物の特徴を表1に示します。